2014年10月29日水曜日

大地を踏みしめる


蹈着実地



実地(じつぢ)に蹈着(たうぢゃく)す



註:
しっかりと大地を踏(蹈)みしめて行く。北宋の代表的な政治家かつ学者でもあった司馬光の人となりが「脚は実地を踏む」と評されたことで有名。おそらくそれに基づいた禅語であろう。





的があるから矢が飛んでくる



垜生招箭



垜(あづち)生(な)って
箭(や)を招く



註:
あずち(的を置く土盛り)が出来上がると、待っていたとばかり矢が飛んでくる。百丈広録では、「およそ言葉というものはこういうものだ」という。つまり、何か或ることがらを言葉によって対象化し、定立させようとすると、自らディレンマに陥ることになる。それは言葉というものが自ら招く宿命だ、という喩えである。虚堂録二。大慧語録十五。






2014年10月22日水曜日

春夏秋冬、好時節


春有百花秋有月
夏有涼風冬有雪

若無閑事挂心頭
便是人間好時節



春に百花(ひゃっか)あり 秋に月あり
夏に涼風(りょうふう)あり 冬に雪あり

もし閑事(かんじ)の心頭に挂(かくる)こと無くんば
すなわち是、人間の好時節


註:
これは茶掛けなどによく使われる言葉で、皆さんもご存じの方も多いでしょう。春には百花が咲き乱れます。秋には澄んだ夜空に美しい月が出ます。夏には暑さの中にも涼風が吹き、冬は白く雪が降ります。もし心に引っかかりがなければ、春夏秋冬いつでも、あぁ素晴らしいと眺めることができます(足立大進)。

出典:足立大進「即今只今




2014年10月20日月曜日

ひけらかすなかれ


少売弄



少(しょう)売弄(まいろう)



註:ひけらかすな。「少」は「…するなかれ」の意。身のほど知らずの一知半解ぶりを叱る。



跡を残さず


没蹤跡



没(もつ)蹤跡(しょうせき)



註:
痕跡がない。痕跡が残るのは、修行がまだ生はんかなため。味噌くさい味噌は上等の味噌ではないように。ほんものの修行は「無念無作、非修非証」(四十二章経)、道そのものと契合するから、シミも匂いも出ない。馬祖語録では「蹤跡を留めず」という。



味なし


没滋味



没(もつ)滋味(じみ)



註:
味わいがない。理法そのものは、人の口を楽しませるような味をもたない。老子三十五章の「道の口に出づるは、淡くして其れ味なし」に基く。虚堂録八。修行とは味もそっけもないもの、という意味にも用いる。しかし、その味気ないところが味わい深いところなのだという含み。→「不風流処也風流」。







裸の丸出し


露堂々



露(ろ)堂々



註:
裸の丸出し。本来の自己の全面露呈(臨済録)。類語に「浄裸々」がある。「浄」は清浄の意ではなく、「乾浄」つまりすっからかんの無一物のこと。

出典:句双紙 (新日本古典文学大系 52)




漆のごとき黒


黒如漆



黒きこと漆(しつ)の如し



註:
一面に黒漆を塗ったように真っ黒け。五行思想では、「黒」は一切の色の原点であり、原初の混沌を意味する「玄(くろ)」とも通ずる。つまり一切の分別、判断を受けつけない原初の消息をいう。祖堂集九・九峰道虔の語に「聖人の迷いは漆のように黒く、凡人の迷いは日のように明るい」。

出典:句双紙 (新日本古典文学大系 52)




2014年10月18日土曜日

水は流れ海へ


水流元入海

月落不離天



水 流れて 元 海に入り

月 落ちて 天を離れず



註:
禅宗の坊さんが、葬式のときに引導を渡します。そのときの最後に、この言葉がよく使われます(足立大進)。

出典:「即今只今」足立大進




2014年10月17日金曜日

脚下をみよ


看脚下



脚下(きゃっか)を看(み)よ



出典:禅林句集 (岩波文庫)




さらにいえ


更道



更(さら)に道(い)え



出典:禅林句集 (岩波文庫)




さもあらばあれ


恁他



恁他(さもあらばあれ)



出典:禅林句集 (岩波文庫)




尋覓をやめ、等閑にみる


胡言漢語休尋覓

刹竿頭上等閑看



胡言漢語(こごんかんご)
尋覓(じんみゃく)することを休(や)めよ

刹竿頭上(せっかんとうじょう)
等閑(とうかん)に看(み)よ



出典:禅林句集 (岩波文庫)




春を探る [戴益]


終日尋春不見春

杖藜踏破幾重雲

歸來試把梅梢看

春在枝頭已十分



終日春を尋ねて春を見ず

藜(あかざ)を杖つき踏破す幾重の雲

帰り来りて試みに梅梢を把りて看れば

春は枝頭に在って已に十分



出典:禅林句集 (岩波文庫)




2014年10月15日水曜日

蛇と人、大小と長短


蛇出一寸知其大與小

人出一言知其長與短



蛇(へび)一寸を出(いず)れば
その大(だい)と小(しょう)を知り

人(ひと)一言(いちごん)を出(いだ)せば
その長(ちょう)と短(たん)とを知る



出典:禅林句集 (岩波文庫)




雁とその影 無意無心


雁過長空 影沈寒水

雁無遺蹤意 水無沈影心



雁(かり)長空(ちょうくう)を過ぎて
影(かげ)寒水(かんすい)に沈む

雁に遺蹤(いしょう)の意(い)無く
水に沈影(ちんえい)の心(しん)無し



出典:禅林句集 (岩波文庫)




凡夫と聖人


凡夫若知即是聖人

聖人若會即是凡夫



凡夫(ぼんぷ)若(も)し知らば
即(すなわ)ち是れ聖人(せいじん)

聖人(せいじん)若(も)し会(え)せば
即(すなわ)ち是れ凡夫(ぼんぷ)



出典:禅林句集 (岩波文庫)




天地、何をか言わん


天何言哉四時行焉

地何言哉百物生焉



天(てん)何をか言わんや
四時(しいじ)行われ

地(ち)何をか言わんや
百物(ひゃくもつ)生ず



出典:禅林句集 (岩波文庫)




兎の角、羊の角


即心即佛如兎有角

非心非佛如羊無角



即心即仏
兎(と)の角(つの)有るが如く

非心非仏
羊の角(つの)無きが如し



出典:禅林句集 (岩波文庫)




煙と火、角と牛


隔山見煙便知是火

隔墻見角便知是牛



山を隔てて煙を見て
便(すなわ)ち是れ火なることを知り

墻(かきね)を隔てて角を見て
便(すなわ)ち是れ牛なることを知る



出典:禅林句集 (岩波文庫)




平中の険、険処の平


羅睺羅撃平中險

阿難陀聞險處平



羅睺羅(らごら)平中(へいちゅう)の険(けん)を撃ち

阿難陀(あなんだ)険処(けんじょ)の平(へい)を聞く



出典:禅林句集 (岩波文庫)




鳳、金網を離る



理盡詞窮路亦窮

鳳離金網鶴抛籠



理尽き詞窮(きわ)まって
路(みち)も亦(また)窮(きわ)まる

鳳(ほう)金網(きんもう)を離れ
鶴(つる)籠(かご)を抛(なげう)つ



出典:禅林句集 (岩波文庫)




瓦礫も光を生ず


放行也瓦礫生光

把住也眞金失色



放行(ほうぎょう)するや
瓦礫(がりゃく)も光を生じ

把住(はじゅう)するや
真金(しんきん)も色を失す



出典:禅林句集 (岩波文庫)




風吹けども動ぜず






風吹不動天辺月

雪壓難摧澗底松



風吹けども動(どう)ぜず
天辺(てんぺん)の月

雪圧(お)せども摧(くだ)け難(がた)し
澗底(かんてい)の松



註:「澗底(かんてい)の松」= 谷底の松

出典:禅林句集 (岩波文庫)